卓球 「夢に向かいて」A 
         〜近藤先生の指導術その2〜
 NO.103 

2004.5.9作成

 今回も、「夢に向かいて」(近藤欽司前全日本監督著)という本からです。

第5章の「指導術その2 試合で役立つ練習とは何か」から、一部紹介したいと思います。


戦術というのは試合運びであり、技の組み合わせから作られる

 指導者は、選手に「もっと頭を使え」と言ったり、「あの選手は卓球をよく知っている」というように知的な部分
での評価をします。「もっと頭を使え」と言って、選手が「ハイ」と返事をしたとしても、実際どのような考え方をしたら
いいのかわかっているのでしょうか。指導者が意図している頭の使い方と、選手がイメージしている頭の使い方の
間にズレがあるようでは困ります。
 どのような頭の使い方が卓球には必要なのか。それを選手が理解したら、卓球をより面白く感じ、また違った
卓球が見えてきます。
 頭を使う―それは、卓球を戦術的にとらえるということです。そうすることで、戦い方もずいぶん変わりますし、
基本練習やゲーム練習に戦術的な練習を組み込んでいけば、点の取り方のバリエーション(幅)が増え、どう
すれば点が取れるのかが、実感としてわかるようになります。
 高校生の段階では、選手はなかなか戦術的に卓球をとらえることができません。白鵬の選手も、戦術的なことが
本当にわかってくるのはだいたい三年生になってからです。二年間、選手としてやってきて、ようやく実感として
わかるので、三年生の5〜6月頃になるとグッと伸びます。点の取り方や失点を防ぐ方法、相手の心理や試合の
流れを、今までの経験から考えられるようになるのです。
 戦術を考える場合のポイントは二つ。ひとつは、ゲームの流れがどのような状態にあるのか分析すること、もう
ひとつは、相手の心理状態を読むことです。
 「試合での戦い方」―これが戦術ですが、ラリーで言えば、サービスから7球目、レシーブから8球目で使う技の
組み合わせです。一つひとつの技にある程度の幅がないと、多彩な戦術を組むことはできません。
 ツッツキで言えば、ストップや攻撃的な早いツッツキ、さらに、横回転のツッツキも必要です。戦術の幅を広くする
には、このように技のレパートリーをいくつか用意する必要があります。そして、もっとも大事なのは、自分の得意
な技が何なのかを理解し、それを点の取り方と結びつけて考えていくことです。
 カットマンの内山京子(89年世界ベスト8)は、試合の組み立て(戦術)が非常にうまい選手でした。彼女は、実際
自分がやっているように仮想しながら次の対戦相手をずっと観戦していて、「カットをここにもっていけばこうくる、
ここに送れば相手はこう返してくるからそれを狙う」というように、将棋や囲碁で先手先手を読んでいくような
とらえ方をしていました。相手の次の手を読む能力にかけては、天才的でした。
 彼女の試合は、1ゲーム目は18本か19本(21本制)で、相手の得意な技術を探りながら競り勝つという展開に
なることが多いのですが、2ゲーム目はほとんど10本以下で勝ちました。1ゲーム目で自分のカットや戦術に相手
がどのように対応してくるか、また、相手の特徴や、自分がどうすれば相手が嫌がるのかを見切り、2ゲーム目
から相手を「何をやっても点が取れない」という心理状態に追い込んでいくのです。相手が二番手・三番手の戦術
に変えてきた時には、それを読んで狙い打つ。内山は、そういう戦い方ができる選手でした。
 技の種類が少ないと、組み合わせのバリエーションが少なくなり、戦術の幅も狭くなります。技の種類が多いほど
戦術は多彩になるので、ふだんの技術練習は、常に戦術を意識して、得点のバリエーションを広げる内容にした
ほうがよいでしょう。試合ではどの選手も、自然に技やコースの種類を意識しますが、自信がないとどうしても安全
な方法しかできません。しかし、それは、相手に待たれることが多いので、普段の練習から意識的に技やコースの
バリエーションを増やしたいものです。
 相手がレシーブでバックにツッツキしてきたボールを、フォアハンドで回り込んで相手のバックに攻撃した時、
相手に待ち伏せされてストレートに抜かれたとします。そうすると、次はバックに打とうとはせずに、ミドルかフォア
に打ちます。しかし、それをミスすれば、またバックに打って、相手の待ち伏せにあうでしょう。だから、練習では
バックにもフォアにも打てるようにしなければいけません。
 相手がフォアに攻撃してきたボールを自分がブロックミスすると、相手はたいてい次もフォアに攻撃してきます。
その時には、少し感覚を変えて柔らかく打つ、あるいは相手に攻撃されないようにレシーブを小さく止めるという
ような戦い方が必要になります。練習においても、こうした実戦的な対応を考えながらやらなければなりません。
試合の中で失点したら、次にどうするかを踏まえて練習することが重要です。入っても入らなくても、決められたこと
しかやらない練習では、相手の待っているところにしか打てないということになります。
 国際大会に行って、ベンチで非常に強く感じたことがあります。それは、日本選手は、1ゲーム目はある程度いい
勝負をするのですが、2ゲーム目・3ゲーム目になると取る点が少なくなってしまうのです。これは、世界レベルの
選手は相手を観察する能力が高いので、打球直前の構えで打つコースを察知されてしまい、待ち伏せされるから
です。また、このレベルの選手は、最初に探りを入れて相手の得意技や打球コースを見抜いたり、タイプ別の
攻略法もよく知っています。つまり、戦術レベルが高いのです。頭を使う練習というのは、そういう戦術レベルを
高める練習ということになります。
 卓球は、点を取り合うゲームで、点の取り方を何種類か用意して、ひとつの点の取り方が通用しなくなったら、
また次の点の取り方というように、次々と変えていかなくてはなりません。それが「戦術の幅」です。
 指導者は、よく選手に「自分の試合をしてきなさい」という言葉をかけます。ドライブマンであればドライブをかけて
負けたのなら仕方ないけど、相手が常にドライブをかけさせてくれるとは限りません。当然、ストップもしてくるので、
自分の得意なことが3球目でできない時の練習が重要になります。ストップに対してフリックする、あるいは、もう
一回ストップするという練習をしていれば、相手のストップに対応できるわけです。そこで、もし「おまえはドライブ
マンだからもっとドライブをかけていけ、なぜドライブをしないんだ」というアドバイスをしたとすれば、相手の卓球と
かみ合わず、結局は負けるのです。
 得意なことを練習するのはもちろん重要ですが、上のレベルになればなるほどレシーブもうまくなるし、自分の
得意なことをやらせてくれないケースが多くなるので、自分の得意なことができない場合の練習も必要になります。
私は時々「3球目でチャンスを作る練習をしなさい」と言います。そうすれば相手にいいレシーブをされても、3球目
であわてなくてすむからです。常に3球目攻撃で先手を取る練習しかしていないと、試合の中でうまく対応できま
せん。
 選手が5月から6月にかけてグッと伸びるのは、前年のインターハイが終わった8月くらいから計画的な練習を
重ね、最終期に戦術面を強化するからです。その頃にようやく「試合での戦い方」を実感するからです。戦術面を
理解すれば、試合運びもうまくなり、サービスの組み立ても全く違ってきます。
 選手は、最初のうちはなかなか作戦として試合を組み立てることができません。試合でサービスを出すにしても、
相手の心理や試合の流れを読んでコースを変えます。何も考えないで、なかば機械的に変えてしまうことがあり
ますが、場合によっては、同じコースに出し続けたほうが良いケースもあるのです。
 もっとも試合を左右するのはサービスです。サービスで直接ポイントを取った時に、もう一本同じサービスを出す
か、4それとも違うサービスを出すかという選択があります。
 考え方としてはどちらも間違いではありません。相手がミスした様子を見て、選手自身がもう一度同じサービスを
出したほうがいいと思えば、そのサービスを使うべきです。このサービスは後にとっておいて、違う種類のサービス
でレシーブを狂わせたほうがいいと思えば、別のサービスを使ってもいいでしょう。大切なことは、本人がそうした
ことを考え、サービスを出したかどうかです。意味もなくプレーをしていると、相手の嫌がるサービスを出さないで
終わったり、相手の待っているところにサービスを多く出してしまいます。


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