卓球 「卓球 元気が湧く43の話」@
                   〜情熱〜
 NO.156 

2006.2.23作成

 前号で、アーチェリーの山本選手の本を紹介しましたが、あきらめるな!という励ましの言葉が伝わってきて、

少し元気が湧いてきたように思います。ニッタクニュースに、「卓球 元気が湧く43の話」(藤井基男著)という本が

紹介されていたので、取り寄せて読んでみました。その中から、参考になった部分を少し紹介したいと思います。


情熱

成功の鍵は”能力より情熱”という話

◇アイザック・スターンの情熱レッスン◇

 アイザック・スターン―
 と言えば、音楽にもよわい私でも20世紀を代表する名バイオリニストであることは知っている。演奏は、聞いた
ことがない。
 たまたま、1月3日に
〈「アイザック・スターンと若者たち」情熱レッスン〉
 というテレビがあるのを知って、NHKをかけた。
 感激した。
 79歳とは思えぬ若々しさで、スターンが若者たちを指導する。その指導をうけて、日本、韓国、中国の音楽家
たちが、5日間でみごとに変わっていく様子が描かれていた。
 9名はいずれも、20歳前後。それぞれの国で期待されている音楽家たちで、国内や国際の音楽賞を受賞して
いる人が多い。卓球にたとえれば、全国大会で活躍中の若手有望選手たちで、その中には国際大会でメダルを
とった人もいる、という感じであろうか。特に韓国のバイオリニスト(仮にAさんと呼ぶ)は、国内のクラシック音楽賞
をほとんど総ナメにしているという。
 初日―。
 韓国トリオの演奏で、いきなり次のようなシーンがあった。
 じっと聞いていたスターンが、
〈いまの演奏からは音楽への情熱、感動というものが伝わってこない。正確に弾こうということに、音楽を奏でたい
という気持ちが負けている〉
 ことを熱っぽく語った。
 そしてAさんにむかって、
「音楽への情熱を見せてくれ」
 と、言った。
 これほど激しく言われたことは、きっとなかったのであろう。Aさんはムッとした表情。レッスンのあとに、自分たち
で練習(復習)するようにと言われていたのに、練習をさぼって、2人の仲間とともに宮崎の街へ遊びに出かけた。
 第2日をむかえる―。
 韓国トリオの演奏を聞いて、きのう練習をしなかったことが分かったのであろうか。スターンはするどい質問を
発した。
〈きのう何を、どれだけの時間、練習したのか?〉
 と。
 韓国トリオは、答えられない。
 Aさんにむかって、「きみ、3回も同じ間違いをしているぞ。集中していないからだ」
 と、手きびしい。
 こうしたきびしさの反面、「ここはこう演奏するのだ」と自分でバイオリンを弾いてみせる。うまく演奏すると、
にこやかな表情に変わって、「ビューティフル」と心からほめる…といった具合で、きびしさとやさしさを折りまぜ
ながらの情熱レッスン。
 この日、「ビューティフル」とほめられた韓国トリオは、レッスンのあと猛練習した。
 そして第3日―。
 スターンがAさんにこう言った。
「きみに本当にいい方向にむかっている。その方向で、これからも練習するように」と。(Aさんは、このひとことを
生涯、忘れることはないだろうな)と私は思った。
 日本のトリオ、中国のトリオも5日間で見ちがえるように成長。表情も、すてきな表情に変わっていく。
 最終日の、聴衆を前にした若者たちの演奏には、盛大な拍手がまきおこった。
「きみたちを誇りに思うよ」
 と、スターン。

 番組を見おわって、音楽も卓球も、見る人、聞く人に伝わるほどの情熱をもって練習に取りくむことが、
プレーヤーにとって最も大切なこと。その最も大切なことをスターンが冒頭で強調したことを、改めて感じた。

◇サッカーのジーコとバスケットボールの能代工◇

 サッカーで鹿島アントラーズを日本一に育てたジーコ氏が、ブラジルから日本にやってきて、日本の指導者たち
の指導ぶりを見て驚いた様子を、こう語っている。
「見ていると、コーチが子どもたちの頭をこづいたり、ああしろ、こうしろとおしつけたり。あれじゃ、子どもは伸びて
いかない。自分で考えるより指示を受けた方が楽だってことになる」
 頭をこづいたりはしなかったが、そのほかはジーコ氏が語ったと同じような指導を私はしていたわけである。
 こうした、苦い貴重な体験をしてからは、教えすぎないように改めた。戦術(作戦)に例をとると、「ライバルのA
選手に勝つにはどうしたらよいか」といった宿題を出す。ライバルには、勝ちたい。勝ちたいから、自分にとって
身ぢかな問題・切実な問題・必要な問題として、一生懸命考える。1週間後に、選手が考えてきた答えを聞く。
最初のうちは、百点満点の60点ぐらい。そこで私が、残りの40点をつけたすと、
「あ、そうか。そうですね」
 という言葉が返ってくることが多かった。1週間考えたあとなので、私の言うことが納得できる。こうして、しだいに
70点、80点、90点の答えを選手自身で出せるように〈考える力〉が伸びていった。何もかもを私が教えていた時
にくらべ、生き生きした表情がよみがえった。
 スターンが「ビューティフル」と称賛したように、うまくやった時に心からほめる。あるいは、落ちこんでいる時に
励ます。こういったことは〈やりすぎる〉ぐらいがいい。だが、技術や戦術に関しては、〈教えすぎ〉よりも〈教えなさ
すぎ〉が、よい。そう考えるようになった。もちろん、振り(スイング)を早くすること、適切な打球点をとらえて打つ
こと、などのように基本的に大切なことは、しっかり教える必要があろうけれども、〈教えなさすぎ〉は〈教えすぎに
まさる〉と考えるようになった。
 ずっと後になってからだが、高校のバスケットボールの名門で、最近のインターハイで10回中8回優勝の実績を
もつ能代工業高校(秋田)の指導者・加藤三彦氏が、勝利の秘けつは何かと聞かれて、「それは指導者が
オーバーティーチングをしないこと」と答えている記事を読んで、納得のいく話だなあ、と思った。

 情熱について、あれこれ述べた。それにしても、アイザック・スターンがレッスンの最初に
「音楽への情熱を見せてくれ」
 と語ったのは、印象深いものであった。スターンがもし、卓球の指導者であったとしたら、
「卓球への情熱を見せてくれ」
 と言ったにちがいない。


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