卓球 「卓球 元気が湧く43の話」B
                 〜1対1.6対2.6〜
 NO.158 

2006.2.25作成

 また前号の続きで、「卓球 元気が湧く43の話」(藤井基男著)という本からです。要約した第2章には、

成功の方程式=考え方×情熱×能力 という式が書かれていました。正しくて、明るくて、個性的な考え方を

もち、「目に見える能力」だけでなく「潜在能力」の開発にも努め、情熱をもって1日1日の練習に取り組む。

3つの要素が最大になるような競技生活を送れば、成功まちがいなし―と。読んでいるうちに、元気が湧いてくる

感じがしますね。今回も、この本の中から、参考になった部分を少し紹介したいと思います。


1対1.6対2.6

または「やる気」と「効果」の話

 1996(平成8)年の1月1日のこと。
 あるチームから声がかかり、1年の練習はじめにあたり、何か話してほしい、ということだった。
 そこで、
「1対1.6対2.6」
 と紙に大きく書き、これを示しながら、このタイトルで話をした。
 種あかしをすると、船井幸雄という”経営指導の神様”といわれる有名な経営コンサルタントが名づけた
「1対1.6対1.6の2乗の法則」を借用したもの。1.6の2乗、つまり1.6×1.6は約2.6なので、私は
「1対1.6対2.6」と書きかえて話をした。
 船井氏が『生き方の極意』という本で明らかにしているところによると―。
 人間の「やる気」の能率測定をしたところ、上司から命令されて「いやいややる時」の仕事の能率を1.0とする
と、上司の命令でも「納得してやる気になると」1.5〜2.0くらい(平均して1.6倍)仕事がはかどる。同じ仕事を
「自分で発案して自分でやる時」は2.2〜3.6くらい(平均1.6の2乗、つまり2.6倍くらい)になったという。
「自分で心底から納得し、しかもわくわくして、大義名分を持って取り組むことが大切」、と船井氏は強調している。
 会社の仕事も卓球の練習も、人間がやること。「やる気」と「能率」つまり効果との関係は、共通するはず。1.6
とか2.6という数字をおおよその基準(目ヤス)としてとらえれば、この法則は卓球の練習にも当てはまる。―
そう考えて、この話を選手諸君の前ですることにした。船井氏の言う”大義名分”を、私流に卓球用に言いかえる
と、「その選手に必要な練習」ということになる。

◇わくわくしてやると2.6倍◇
・卓球開始5年半で世界一、なぜ?

 ”ミスター卓球”といわれた荻村伊智朗氏のテレビ番組が7月24日(’02年)にBS朝日から放映されるという
ので、荻村さんとの縁が深かった上原久枝さん久保彰太郎さん織部幸治さんらとともに私も1時間ちかい取材を
うけた。いかにも荻村さんらしい話の1つとして、私は次のエピソードを語った。
 荻村選手がはじめて世界選手権代表になった時のこと。第2次合宿と第3次合宿の間だったと思うが、1週間
ほど間があいた。練習相手をつとめる私は、郷里の岩手へ帰ろうとした。すると、荻村選手が、
「東京に残り、僕の家に泊まって、次の合宿まで練習相手をしてほしい」
 と言った。
 その情熱に打たれ、私はこれを受けた。私は1950年代の世界選手権5大会で代表選手団の練習相手を
つとめたが、このような申し出をうけたのは、後にも先にも荻村選手ただ1人で、これまさに、荻村選手の発案に
よる自発的なミニ合宿である。
 正規の代表合宿でも、仲間が寝ている早朝に、自発的に1人でランニングをしていた。たまたま朝早くすることの
ある私1人だけが毎朝目撃したのだが、すごいな、と感動した。「やる気」と「効果」の関係からすれば、大学時代の
荻村選手の練習やトレーニングの効果は、”理想の極地”つまり”効果2.6”に近いものであったと思う。練習内容
も、夜に日誌をつけて翌朝読みなおす習慣のもとに、自分のめざす卓球にあった大義名分のあるものを常に工夫
していた。こうしたことが、「並はずれた集中力」「豊富な練習量」と相まって、卓球選手としてはきわめておそい
「高校1年の秋」に卓球をはじめたにもかかわらず、日本が生んだ7人の男子世界チャンピオン中で最短の
「わずか5年半」で世界の頂点に立つことができた原因であった、と私は確信している。

◇納得してやると1.6倍◇
・中学選抜で2位の伊興中学校

 「この練習をやれ」
 と指導者から命令された場合でも、納得してやると1.5〜2.0、つまり2倍ちかい効果が期待できるという。
”理想の極地”にくらべれば低いけれども、おなじ1時間の練習で効果が約2倍というのは、すごいことだ。
 ことし(’02年)春の全国中学選抜大会で準優勝した東京の足立区立伊興中学校。公立校で”金の卵”の
スカウトということもない。「地元生徒で中学入学してからラケットを握った選手ばかり」だという。それにも
かかわらず準優勝できたのは、指導者の多田進先生がすぐれ、選手たちが素晴らしかったからである。”法則”に
照らして言うと、”効果1.6”付近の高い練習効果を日常の練習であげたからだと思う。去年夏にことしの主力
メンバーの練習ぶりを見せてもらった時のこと。多田先生が、
―学校の成績がよく素直な生徒が多くて、とても理解力がすぐれている
 と、一度ならず強調していた。つまり、先生の指示したことに対して、理解し納得しながら練習することが多いこと
を語っていた。

◇いやいややると効果1.0◇
・これを抜け出すヒント2つ

 命令されて、いやいや練習する時。その効果は低く、およそ1.0。
 「いやいややる」状態を抜け出すヒントを、2つ考えてみた。
〈その1〉 現役をやめてから、「あの時、(指導者の)言うことを聞いてればよかった」
 と、後悔した有名選手がいる。
 言われたときは納得しないことでも、あとで納得することがある。だが、現役をやめてからでは、おそすぎる。
 そこで、3ヵ月だけ、と自分の心のなかで期限を切って、言われたとおりにやってみる。3ヵ月のあいだに
「あ、そうか。先生の言ってる意味が分かった。なぜ、この練習が重要なのか分かった」というのであれば、その
時点から”効果1.6倍”にハネあがるだろう。納得してやるわけだから。
 3ヵ月たっても、基本的なこと、大切な部分で、指導者の言うことが納得できないというのであれば、その時は私
なら、その指導者のもとを離れる道を選ぶ。アメリカ大リーグで活躍中の野茂英雄投手がもし、打者にお尻を
むけて投げる独特のトルネード投法を標準型になおせ、と指導者に言われたとしたら、おそらくその球団を去るで
あろうように。納得しないまま”効果1.0”のところで、長く足ぶみしているわけにはいかないからである。
〈その2〉 1日に最低15分なり30分は”自主課題練習”―プレーヤー自身が練習メニューを考えてやる自主練習
―を行うことにしたらどうであろうか。なぜ?
 第一には、”理想の極地”にむかって、しだいしだいに自主練習の時間をふやしていくことが大切―という思いを
指導者も選手も確認しあう意味で。
 第二には、1人ひとりの選手が何を重要と考えているかを、指導者が知ることができるから。
 知ることによって、
「あ、そうか。この選手は、この練習が一番やりたかったのか。なるほど、これを中心に練習することが彼には
重要かもしれない」といったように、指導者がヒントを得ることもあろう。
 その選手に必要のない練習、つまり大義名分のない練習をしているのであれば、練習後に話し合い、選手の
「考える力」を育てるよい機会とすることもできよう。

 同じ1時間の練習をするなら、
 効果1.0よりは効果1.6を
 効果1.6よりは効果2.6をめざしたいものである。たとえ1日に30分であっても。     


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