| 卓球 卓球と脳(4) 〜「卓球レポート」より〜 |
NO.46 |
2000.1.8作成
前回の続きで、卓球と脳については、これで最終回です。いつもやっている卓球が、脳にいい影響を与えるとは
やりがいがありますね。生涯スポーツとしても最高です。
脳のリハビリにも卓球は最高
(森) 4番目は脳のリハビリに卓球が最適だという研究を発表したことです。
(佐藤) 私はもともと野球が専門だったので、森先生のように卓球がすべてという人と違い(笑)、逆に卓球の良さ
を客観的に見ることができると思っています。そうすると、卓球は健康を回復するためのリハビリには最高
なんですね。何と言っても手軽で、楽しい。用具の手配がしやすく、場所もとらない。いつでも、どこでもできる。
雨が降ってもできるし、年齢もあまり関係ない。脳に支障が出て、体が不自由になったとき、車イスでもできるし、
立ったままでもできる。そしてレベルアップが目に見えてできる。これは非常に大きなことなんですね。
人間は向上することが自分自身で分かると意欲を持って物事に取り組みます。単調な運動では、すぐあきて
しまう。ところが卓球の場合は、患者の目の色が違う。また、難易度の点でも非常にいい。徐々に階段を上げ
られる。初めはボールをころがして、それをラケットに当てる運動から始めることもできる。そのようなことで、
卓球を始めた患者は驚くほど早く上達します。意欲の面でも、上達する度合い、スペースの面でも、卓球は
脳のリハビリに非常にいいんですね。
卓球は脳の血流を増加させますし、卓球リハビリは神経線維を成長させ、回復を促進させます。

表8は卓球療法により運動機能が回復するのを示した表です。縦軸がどのような動作ができるようになるかを
示し、横軸が1M(月)単位の時間推移を示します。黄色い横棒で示しているように、初めのうち患者は座位
(車イスなど)で、ボールをころがしたり、ラケットに当てるのが精いっぱいですが、短期間でバウンドするボールを
打てるようになり、立ち上がってラリーができるようになっていきます。こうなれば退院ということになります。

表9は脳の機能が回復するのを示した表で、縦軸が回復の程度、横軸が記憶力や会話力などの各項目を
示します。卓球療法をスタートさせた時点の折れ線グラフが赤線ですが、各項目の数値は低いものです。しかし、
3ヶ月後の状態を示す黄線、半年後の状態を示す緑線になると、脳の働きがかなり回復していることが
分かります。
卓球は、患者が遊びながら自分自身の動きを出せ、意欲、集中力、注意力を高めます。脳卒中患者の
理学療法の一手段として学会で認知されるようになってきました。
― 難しい内容のお話を『卓球レポート』の読者用に分かりやすく説明していただき、ありがとうございました。
今後はどのような研究をされていく予定ですか。
(森) 私たちは「卓球と脳」の研究を進めてきましたが、「スポーツと脳」の研究はまだまだ未開拓で多くのテーマ
があります。私は「スポーツと脳障害」「スポーツと脳の運動処方」「スポーツと脳の強化」の3つに大きく分けて
検討しています。今回、日本臨床スポーツ医学会の脳外科部会でも「高齢者や脳疾患患者の運動療法」に
取り組むことになりました。これには当然卓球も含まれます。また「脳の強化」ではメンタルトレーニングや
脳内活性物質(エンドルフィンなど)、神経・筋伝導速度、脳代謝などの研究も挙げられます。さらに強くなる
ためには脳の五感を鍛える、たとえば卓球の遊澤選手(東京アート)がスポーツ選手の中で一番と注目された
動体視力などのスポーツビジョンの研究も大切と思います。今後とも各分野の研究者と協力して進めたいと
考えています。
(佐藤) これからの日本社会を見るとき、卓球のいろいろな効用は時代にマッチしたものだと思います。
高齢化社会におけるボケ予防や卓球リハビリなどもそうですが、受験勉強で眠くなったときの眠気覚ましや
コンピュータを使って疲れたときに、卓球のボール突きや、素振り、壁打ちをしたりするのはマッサージ効果も
あり、よい気分転換になりますね。
(森) 私は先日、日本卓球協会からの依頼で、アジアジュニア選手権の日本チームのチームドクターとしてインド
に行ってきました。ビックリするようなこともあり、楽しみながら選手の支援をしました。日本のジュニアは3位
だったのですが、技術的には優勝した中国、韓国と遜色がなく、体力、精神力を伸ばしていけばさらに上の
メダルを狙える可能性があります。私たちがやっている健康を通しての普及活動と、トップを狙う強化活動の
両輪がうまく噛み合い、日本の卓球界がさらに盛り上がっていくことが今の夢です。