| 将棋 「プロ論。2」 〜何をやってもうまくいかないとき〜 |
NO.1337 |
2006.2.2作成
最近、「プロ論。2」〜仕事が好きになる50人のコトバ〜という本を読みました。その本の中の
「何をやってもうまくいかないとき」という章に、谷川浩司九段の文章が載っていたので、紹介します。
いいときは焦らない、悪いときはあきらめない。最後は自分が勝つようにできていると思って、臨めばいい
5歳で将棋を始め、14歳でプロデビュー。その後、21歳の若さで史上最年少の名人位を獲得する。1997年
には「十七世名人」として永世名人になった。終盤の「光速の寄せ」で多くのファンを魅了し、数多くのタイトル
を獲得している
誰よりも自分は強いと思っていないと、力を100%発揮することはできない
将棋が好きで好きでたまらなかった。それが、この世界に入った何よりのきっかけです。すでに小学校3年生で、
将来は名人になりたいと作文に書いていました。そしてプロの棋士になって、28年がたつわけですが、長くやって
いるとどうしても慣れと飽きが出てきます。
好きなことでも、そういう気持ちになることがある。だから私が心掛けてきたことは、毎日、新しい気持ちで将棋に
接することでした。例えば、ほかの人の指した棋譜を勉強する。詰め将棋を解くだけでなく自分でつくってみる。
仲間と勉強会を開く。タイトル戦があれば、現地に行って対局者と同じ気持ちで勝負に挑んでみる。そうやって
意識して新しい毎日を過ごすことで、いろんな引き出しが生まれ、常に新しい刺激を得るように心掛けてきました。
ダラダラと過ごすのではなく、目標を持って、新しい気持ちで毎日を過ごす。これが長くプロの世界でやってこられ
た理由だと思っています。
勝負の世界に偶然はありません。一夜漬けは通用しない。毎日毎日の積み重ねがすべてなんです。確かに才能
は必要かもしれない。でも、毎日の努力の積み重ねを、それほど苦にせずにできることこそ、実は才能といえるの
ではないでしょうか。謙虚な努力は自信にもつながります。実際の勝負では、自分が誰よりも強いんだと思って
いないと、力を100%発揮することはできません。将棋は盤上の勝負である一方で、人間対人間の勝負でもあり
ます。相手を必要以上に恐れたら、いい結果は出ません。勝負事では、気持ちのあり方は非常に大事なもの。
自信が持てるようになるためにも、日々の努力が大切になるんです。
長い対局では、形勢がどんどん動いていきます。そんなときはできるだけ感情を表に出さないようにする必要が
あります。いいときは焦らない、悪いときはあきらめない。そんな意識を持ってゆったり臨む。いろいろあるけれど、
最後は自分が勝つようにできているんだという気持ちを持って臨むんです。
また、枝葉にとらわれてはいけない。将棋は平均して110手で勝負がつきますが、たくさんの手の中にも太い幹
のようなものが貫かれている。一カ所に目を奪われるのではなく、隅にある4枚の香車を常に見上げるように全体
を見る必要があります。
よく、次の手を読む、なんていいますが、実は読むよりも読まない方が大事なんです。100の手があるとすれば、
97は読まない。本筋に近い、幹に近い3つの手を読む。太い幹を見極める大局的な感覚がとても重要なんです。
数多くの栄光の影で、大きな挫折を経験している。羽生善治氏をはじめとした若手の台頭で、30代前半では
タイトルを次々と奪われたのだ。しかし、谷川氏は見事に復活を遂げた。
ずっと右肩上がりの人生を送れる人はいない
10代のころは、大先輩との対戦は負けてもともと。だから思い切った勝負ができた。ところが、タイトルを取ると
翌年は挑まれる立場です。今度は、思いっきりぶつかっていけなくなる。そんな中で、自分自身を見失ってしまった
んです。自分の将棋が指せず、時代や対局相手を意識しすぎるようになってしまった。
ところが、ショック療法とでもいいますが、タイトルをすべて失って吹っ切れたんですね。原点に戻ることができた。
棋士には3つの顔があります。勝負師と芸術家と研究者の顔です。この3つのバランスを取ることが必要になる。
ところがスランプの時期は、あまり勝ち負けばかり意識しすぎていた。もちろん最後は勝負がつきます。しかし、
将棋は2人で指すものであり、2人の作品なんです。
いい勝負をしよう、いい棋譜を残そうという気持ちが、歴史に残る大勝負を生む。私は、勝負にこだわりすぎて
将棋の原点の心と、楽しむ気持ちを失っていたんです。気持ちを入れ替えると、楽しい将棋が戻ってきました。
そして、結果もついてくるようになったんです。
私はもともと大変な負けず嫌いですが、将棋では勝つか負けるかしかありません。負ければ悔しいですが、
それも仕方がない。でも考えてみれば、死ぬまでずっと勝ち続ける右肩上がりの人はいないわけです。勝つときも
あれば負けがこむこともある。
大事なのは、負けた経験や挫折感を、後の人生でどう生かすかです。生かすことができれば、負けや失敗は
長い人生の中で失敗にならなくなる。むしろ、とても大切な糧にできる。
私は21歳で名人になったこともあり、20代でも無茶はできませんでした。でも、20代は、少しくらい失敗しても、
やり直しがきく年齢です。若気の至りと、人生の先輩方も大目に見てくれる。そして、いろんな選択肢が残されて
いる。やはり挑戦心を忘れないでほしいですね。
もうひとつ気をつけてほしいことは、仕事の技術と同時に、礼儀やマナーなど、人間性や社会性をたいせつに
してほしいということです。将棋は勝負の世界であり、実力がものをいう世界ですが、長年見ていると、自分のこと
だけでなく、周りの人に配慮して生きている人が残っているように思います。人格者は自然に「いろんな人に応援
される」という見えない力も加わる。将棋の神様は、ちゃんと見ているということなんですね。
難しい時代ですから、迷っている人も多いと聞きます。ならば、やはり原点に戻ってみる。自分の本当の声に耳
を澄ませてみるべきだと思います。仕事なら、好きな仕事をすること。好きなことでも長く続けるには努力が必要
です。やりがいがない、面白くもないでは、長く続けられるはずがない。
登山家は山で迷ったら、元の場所に戻って再スタートするそうです。迷ったときには原点に戻って再スタート
すればいい。それが、いい人生につながるのだと思います。
プロの哲学
迷ったときには原点に戻ること。それがいい人生につながる