| 将棋 「最強将棋道場」A 〜四天王インタビュー(羽生編)〜 |
NO.1352 |
2006.3.27作成
前回の続きで、「最強将棋道場」〜四天王が強くなるコツをキミに直伝!!〜(小学館)という小学生向けの本
からです。その中に、四天王インタビューというコーナーがあり、上達のヒントとしてわかりやすく、大変勉強に
なりました。今回は、羽生善治二冠(当時)のインタビューから、少し紹介したいと思います。
四天王インタビュー ―羽生善治二冠―
七冠王時代は忙しかった。だけど、周囲に応援されながら”ホーム”で指している雰囲気だった。
―突然ですが、羽生先生は、天才なんですか?
羽生 え、違うと思います。
―だって、みんながみんな、天才だって言っています。
羽生 ホントの天才の人って、たぶん、なにか突き抜けてるんだと思うんですよ。そういうところは、私にはまだない
かなと思ってるんですけど。
―天才じゃないと七冠王はムリじゃないですか?「そんなことがあるわけないということが起こってしまった!」と
世間がざわめいた大事件でしたよ。
羽生 あぁ、そうでしたね。
―羽生先生本人は、七冠王当時はどんな感じだったんですか?
羽生 ただただ忙しかったです。一年間に7回もタイトル戦を戦うわけですから、またすぐ次、と対局がやってくる
んです。次というよりも、あるタイトル戦をやっている途中から、もう次のタイトル戦が始まりますから(笑い)。
もう追われているような感じ。1年で5年分過ごしているような感覚です。
―あらら。「うれしい!」とか「すごいことをやってしまった!」とか「どうだ!」とかは思わないんですか…。
羽生 ええ。そんな立ちどまって考えるというよりも、「次はなにをするか」ということしか考えていません。ただ…。
―ただ?
羽生 特別なムードだったのは覚えています。将棋というものは、両対局者を公平に扱わなければならないのです
が、あの時だけは、周囲が私を応援しているような雰囲気でした。サッカーでいうところのホームゲームで
対戦している感じなんです。あの指し心地は独特でしたね。
道場に通い始めて2〜3か月は一度も勝てなかった。でも楽しくて、「次、また次」と指し続けていた。
―その感覚は、羽生先生しか味わったことがないんでしょう。では、天才と呼ばれるまでの経緯が知りたいので、
将棋に出合った頃の話をうかがいます。
羽生 初めて触れたのは小学1年生の時でした。友達が将棋盤を持っていて。「ダイアモンドゲームやラジコンや
虫取りの他にもこんな遊びがあるのかぁ」という程度だったんです。1か月くらい夢中でやると、その友達に
勝てるようになり、友達は指さなくなってしまって。父に将棋盤と駒と大山康晴先生の定跡本を買って
もらって、ひとりで並べてみるようになりました。
―羽生少年はいったい将棋のどこにハマったんですか。
羽生 いろんな種類の駒があって、動きがそれぞれ違う面白さがあるところと、必ず勝ち負けがつく潔いところが
よかった。
―で、本を読み込んだ?
羽生 ええ。ひとりでやっているうちに、「僕はけっこう強いんじゃないか。誰かと実戦で戦いたいな」と思いまして、
小2の時に大会に参加したんです。
―お。いきなり大会出場!?
羽生 結果は、完敗です(笑い)。自分が強いなんて錯覚でした。そこで、強くなりたくて八王子将棋クラブという
将棋道場に週1回、通い始めたんです。一日に6〜7局は指していました。
―じゃあ、そこで勝ったり負けたりするうちに強くなって。
羽生 いやいや、負けたり負けたりです、ずーっと(笑い)。最初の2〜3か月はひとつも勝てなかったんじゃないか
なぁ。
―えーっ。そんな人が将来、将棋の七冠王になるなんて!?
羽生 思えませんね(笑い)。とにかく、たくさんたくさん指しました。「負けた、はい次、負けた、はい次」みたいな
感じです。駒をどんどん動かしていくことが楽しかったし、負けてもあまりくやしくはなかった。それより「もう1回
指そうよ!」みたいな気持ちが強かったですね。帰る時間が来るのがつらくて、泣いてしまったことも…。
―負け続けスタートだった羽生少年が強くなれた秘密はなんだったんですか?ここが一番大事なところなんです
が。
羽生 やっぱり、実戦をどんどん指したことだと思います。
―ボクシングのスパーリングという練習法のようですね。
羽生 負けてもいいからとにかくたくさん指す。そして感覚的に、ダメな例をいっぱい覚えていくんです。「こう指して
もダメ」「この手はダメ」「こうはダメ」みたいなことをどんどん覚えていく。これが大事です。何百回もやっていく
うちに、頭でいちいち考えなくても、「これはダメなんだ」と、なんとなくの直感でわかるようになる。
―天才の強さは”なんとなく”ですか!?定跡や戦法を覚えるから強くなると思ってた…。
羽生 たしかに、プロの世界を目指すとなったら覚えなきゃならないんですが、それは別に何歳になっても覚えられ
ます。ただ記憶すればいいだけですから。だけど、「この局面ではこの手しかない」とか「この手はやっちゃ
ダメだ」とかいう直感の判断は、10代前半までに身につけておかないといけない。これが自分の将棋の骨格
になります。
―将棋の骨格は直感ですか。
羽生 ええ。あとはそれにどう肉付けしていくかという感じで強くなっていくものなんです。直感はプロになっても
変わりません。私の今の将棋の直感は小学生時代に作られたものです。
―量を指すことが大切なのはよくわかりました。もしかして、羽生先生がおっしゃる直感っていうのは舌の感覚と
似ていますか?将棋の指し手はよく味覚にたとえられます。「味がいい手だ」「辛い手だ」「激辛!」とかそんな
ふうにいうでしょう。
羽生 ああそうですね。舌でなんとなく味を感じるのと似ています。「こんな感触の手がいい手なんだ」という
味覚的なものは、中学生になるまでにつかむべきだと思います。奨励会に入ってしまうとやみくもに指して
いれば勝てる、というレベルではなくなりますから。
―なるほど。その頃、道場以外では、将棋を指していましたか?
羽生 家族ともたまに指しましたよ。家族は私と違って将棋のことをよく知らないので、父+母+妹vs私で対戦
するんです。そして、家族連合軍が負けそうになったら、突然、盤をひっくり返すんです。そこから逆転勝ちを
目指す。”逆転将棋”と呼んでいましたね。他に”ひとり将棋”もよくやりました。一手指すごとに盤をひっくり
返してまた考えるんです。これ、永遠に終わらないんですけど(笑い)。あとは、新聞の将棋欄を読んで
次の一手を考えたり、詰将棋をしたりしていました。
―そうやって、無敵の道を歩んでいったんですね。当時の羽生先生の憧れの棋士は誰ですか。
羽生 谷川浩司先生です。21歳で最年少名人になられてすごいインパクトがあった。かっこよかった。その頃の
谷川先生は横歩取り戦法を多用していたので、私もマネしてよく指しました。「これはいい戦法だ」って
(笑い)。
―その話を聞いて思い出しました。七冠制覇をした時、七冠目の王将を取った時の相手が、谷川先生だった
こと!
羽生 そうでした。なんか不思議な気がしますねー。
盤上では、うそをつけない。一手一手が全部ホンネ。本当は何を考えているか、言っているようなもの。
「すごい力を尽くしたな」という一局がすごいうれしい。自分の予想を超えた将棋を指すことを目指したい。
―羽生先生といえば「羽生マジック」という一発逆転手。あれはいったいなんなんでしょう。まるで「絶妙に
描かれた推理小説を読んでいる気分だ」といった人がいます。その手が指された瞬間、すべての駒の配置が、
羽生マジックのために張り巡らされた網のように見えるんです!
羽生 ああ…。実は私はプロになるまで実戦中心で、序盤の研究をほとんどしたことがなかったんです。だから
必然的に毎回毎回、苦しい展開になるので、劣勢をなんとか挽回するスタイルになりました。ですから、網を
張るというより、案外、その場その場で瞬間的に指しているんです。
―場当たりでマジックが生まれちゃうんですか?
羽生 だって実戦の展開で15手先を予想できる人は、もう神の領域に近いと思いますよ。私は、「やってみて、
なにか来てから考えよう」「こう来たから、じゃあ今度どうしようか」という調子です。「こう指す、こう来る、
そこでこう指す」なんて言いますけど、相手の「こう来る」の時点で予想が違っちゃうことが多いから、いくら
先を考えても意味がない。
―わー。
羽生 指し手の可能性は一手で80通りあるので、私はその場で大ざっぱにギュッと3つくらいに絞っちゃうん
です。残りのいくつもの手はなかったことにする。捨てちゃうんです。適当と言えば適当ですね(笑い)。
でも、さっき言ったように、ダメな例を知っていれば、瞬間的に3つに絞ることができるんです。
―その3つの中に”マジック”があるというのが、やっぱり天才の証ですよ!じゃあズバリ、羽生天才は今、
どんな将棋を目指して指しているんですか?
羽生 「あ、何か今日はすごい力を尽くしたな」とか、「自分の力ってこんなものかと思ってたら、あ、全然違うのが
できた」という将棋が、私はすごい嬉しいんです。自分の想像を超える対局には充実感があります。でも、
そんな対局はめったにないんです。自分の想像を超える対局には充実感があります。でも、そんな対局は
めったにないんですよ。今までに5局くらい。200局に1回。それを味わいたくて、次また指すんです。
―ゾクゾクしてきますね。
羽生 将棋はホントの紙一重の、いや紙一重どころじゃない、ほとんどミクロの世界で勝ち負けがつくんです。
そこがおもしろい。それから、盤上ではウソをつけない。一手一手が全部本音。ホントはなにを考えているか
ということを全部さらけだしているものなんですよ、将棋って。
―将棋は本音バトルなのか!
羽生 そこがまたいいんです。