| 将棋 「最強将棋道場」C 〜四天王インタビュー(谷川編)〜 |
NO.1354 |
2006.3.29作成
前回の続きで、「最強将棋道場」〜四天王が強くなるコツをキミに直伝!!〜(小学館)という小学生向けの本
からです。その中に、四天王インタビューというコーナーがあり、上達のヒントとしてわかりやすく、大変勉強に
なりました。今回は、谷川浩司棋王(当時)のインタビューから、少し紹介したいと思います。
四天王インタビュー ―谷川浩司棋王―
研究者、勝負師、芸術家この3つが合わさった者がプロ棋士なり。つねづねそうあるべし!
―谷川先生の有名な言葉に、「研究者、勝負師、芸術家。3つが合わさった者がプロ棋士である」というのが
あります。
谷川 私はこの3つのバランスがうまく取れているのが望ましいとつねづね思っているんです。
―「研究者」は将棋の手筋や戦法を研究する人という意味。「勝負師」は勝つための精神力や平常心を鍛えたり、
決断する勇気を高めることだと思います。3つめの「芸術家」の意味を解説してほしいのですが。
谷川 プロ棋士の場合、棋譜が後々まで残ります。というより、残せるものは棋譜しかありません。それは
芸術作品のようなものなんです。私は、人が見た時に「ああ、美しいなぁ」と思ってもらえるようなものを作り
たい。美しい絵のような棋譜を作りたいんです。そういう心がけで将棋を指します。
コンマでも速く相手の玉を討ち取るのが、美しい棋譜だ!将棋に美しさを吹き込め!
―それを聞いて、渡辺明六段が「谷川先生の指している姿勢がピンと背筋が伸びていて美しくて好きだ」といって
いた話を思い出しました。
谷川 そうですか。たしかに、ただ勝てばよいというものではなく、姿勢や態度も含めて、美しく勝つということは
とても大切なことだと思います。つねに意識していますね。
―なるほど。一局の将棋に命を吹き込む感じですね。
谷川 美しい棋譜というのは、やっぱりつねに最善、最短。ゼロ・コンマでもよく、ゼロ・コンマでも速いものが美しい
というのが私の考えです。
―だから光速流というのが自然と生まれたのですね。
谷川 何が最善、最短かというのは、その人によっても価値観が違うんで、何とも言えないところですけれどね。
即詰みがあるところで遠回りすることは、ちょっと恥ずかしいと思うんですよ。もちろん、将棋には、どうやって
も、何通りも勝ち方がある局面というのも、出てくるわけなんです。その時に、もう必至を掛けて受けなしとする
ことでも勝てるし、ちょっと難しい長い手順だけれど、即詰みで打ち取ることができるというのもある。ですが、
後世に残る棋譜のことを考えた時に、やっぱりそこで一気に討ち取るのが、最短であって美しい棋譜だと
思いますね。
―最短=光速なんですね。それが一番かっこいいですからね。そもそも光速流というニックネームはいつ生まれた
んですか?
谷川 15年くらい前ですね。ある将棋雑誌に私が終盤の解説をする連載記事があって、その題名が
『光速の周辺』というものでした。編集者の方が考えられた言葉だと思います。私は奨励会からプロになって
勝ち上がっていく中で、終盤の逆転勝ちがずいぶん多かったんです。だから注目されたのだと思います。
―逆転勝ちが多かった理由はなんですか?
谷川 詰将棋が好きだったせいかもしれません。10代の頃の将棋の勉強は、詰将棋を解くことと、作ることが
相当な比重を占めていましたから。
―え?作ることも好きだったんですか?
谷川 ええ。解くことも好きでしたが、作る方がおもしろかったんです。作るというのは自分でイメージをわきたた
せることですから、そのくりかえしが今の将棋に役立っているのかなと思います。
―詰将棋を作るのは、僕たちにとっても将棋が強くなる秘訣なんでしょうか?
谷川 詰将棋を解くことはどの棋士も基礎トレーニングとしてやっていますが、作る棋士はあまりいない。最初に
結論があって、それを裏づけるために考えるという逆算の訓練にもなりますから、効果は大きいでしょう。
ですから、私は他の棋士よりも終盤の詰めの部分をイメージする段階が速いんでしょうね。
―谷川先生の光速の寄せがいったん始まりだすと、もうジェットコースターに乗っているみたいに、一気にスピード
をあげて詰みまで行ってしまう。まるで体を動かされるような感覚があるんですが、ジェットコースター乗り場の
位置=寄せが始まる局面が、他の棋士よりも、ずいぶんと手前にあるんですね。
谷川 そうかもしれません。
将棋はシーソーゲーム!一局のうちに5回は逆転劇が起こっている。さあ、逆転の一手を探せ!
―では、谷川先生は伝家の宝刀”光速流”をどこで抜くのかの秘密に迫りたいのですが、まず対局中はどんな
ふうに考えて指しているんですか?
谷川 いつもいつも、最後の場面まで読み切れるわけじゃないので、局面の形勢判断というのをします。
―今、相手と自分とどちらが有利なんだろう?という判断ですね。
谷川 そうです。将棋は、50点対50点でスタートする綱引きみたいなところがあるんです。それが一手指すごと
に、51対49、52対48となっていきます。
―その点数は逆転することはあるんですか?
谷川 ありますあります。将棋というのは、逆転がしょっちゅう起こるゲームです。一局の中で5回逆転劇が起こる
ことも珍しくありません。
―シーソーゲームなんですね。
谷川 自分の言い分だけを通して、相手の言い分を全く通さないというわけにはいかない。相手の言い分や主張も
聞きながら、こちらの主張も出していくというのが将棋ですから一手ごとに形勢が動く。たとえば、序盤でミスを
して、こちらが3手ぐらい悪い手を出しても、相手が最後の最後で一手悪い手を出したなら一気に逆転する
でしょう?
―途中で45対55で負けている時はどうしたらいいんですか?
谷川 それは相手の意表を突くような手順を考え出さなきゃいけないです。「こういう勝ち方しかない!」という
のが、苦しい中でもいくつか出てくるはずなんですね。それを探す。「どうだろう?やっぱりうまくないか?」とか
いうふうに。70対30まで差が開いたら、もう逆転しようがないんですけれども、60対40ぐらいまでなら、
途中でリードしていても、それを勝ちに結びつけていくのは大変です。
―さぁ、いざ光速流を出してみよう!って時は、どんな瞬間にどんなふうに詰めの部分をイメージするんでしょうか。
谷川 そうですね。中盤戦の段階で「この将棋が勝てるとすれば、もうこういうパターンしかないんだ」というような
ことを頭の中に思い浮かべます。そして、そのパターンにたどり着くための手段を想像して、数ある中から
消去法で消していくと、それを成立させるための「これしかない」という手順がある程度わかってくる。それに
当てはまらないような指し方はもう最初から捨ててしまう。そうするとなにか筋道が浮かび上がってくるの
です。光速の時は、指し手の可能性が仮に100通りあるとすれば、99は捨てられる。道がひとつだけの状態
なんです。
盤面の最終形がらんらんと光って見える。光速流がいったん発動すれば、相手は逃れられない!
―来たー。勝利への一本道ー。光速流、発動!!相手はもう逃げられない。
谷川 もちろん、ふつうのパターンだと、プロ棋士なら誰でも知っていますから、他の人がなかなか思いつかない、
ちょっと数ランク上の手順を発見しないとうまくいきませんけどね。
―その、ふつうじゃない勝てるパターンというのは、どんなふうに見えるのですか。
谷川 最終形の盤面の一部分は具体的に見えますね。全部で40枚ある駒のうち、相手の玉の近辺だけです
けれど。
―相手の玉の周りだけが千里眼のように見える?
谷川 らんらんと光ってきます。
―おぉ!すごい!!見つけた時はニヤリとするんですか?
谷川 さあどうでしょう(笑い)。
―まるで肉食獣が獲物を捕まえるようですね。その瞬間は、それは楽しいでしょうね。
谷川 そうですね。やっぱりそれを味わうのが将棋を指す最大の要因なわけですから。いや、でも、こちらがもう
そうやって読み切ってしまった後というのは、逆に淡々という感じですね。
―光速流おそるべし!
谷川 そういうふうにいったん「光速流」というブランドがつくと、やぱり有利な面もあります。こちらが何か一手
動いたら、「ああ、それできたな。光速流が来た!」と思ってくれて、相手があきらめてくれることも時々
あります。たまにはこちらの読みにもポッカリ穴が開いていることはあるんですけれども。
―相手は気づかない?
谷川 ふふふ。勝手に負けてくれることもありますね(笑い)。