将棋 「先を読む頭脳」@ 
          〜天才・羽生を科学する〜
 NO.1425 

2006.11.24作成

 インターネットのAmazonで、「先を読む頭脳」(羽生善治、伊藤毅志、松原仁著)という本を見つけました。

羽生へのインタビューを文章に直して、人間を科学的に捉える人工知能的立場(松原)と認知科学的立場(伊藤)

から解説するという内容の本です。その本の中から、興味を持った箇所をいくつか紹介したいと思います。


センスと継続力

 私には現在、弟子はいませんが、上達が早そうな子供は、見ていると比較的すぐにわかります。どういうところを
見るかというと、ばず盤上で駒が積極的に戦っているかどうかというところです。これはとても重要なポイントです。
もう一つ大事なことは、論理性です。子供なので基本的には直観で指していることが多いのですが、その中に論理
的な思考を感じさせる部分のある子は、おおむね早く上達していくように思います。
 ただそれはあくまで、アマチュアの四段、五段という段階までの話です。その子がプロになれるかどうかとなると、
また少し違うレベルの話になってきます。
 プロになるためには、もちろん持って生まれた先天的なセンスや能力が大事だと思いますが、それ以上に必要な
ものがあると私は思っています。それは例えば、非常に難しくてどう指せばいいのかわからないような場面に直面
したとき、何時間も考え続けることができる力。そして、その努力を何年もの間、続けていくことができる力です。
 一言でいえば、継続できる力ということでしょうか。プロになる上では、先天的な頭脳の冴えというようなことより
も、その「継続力」が大事な要素になってくると思います。
 指している将棋を一目見れば、その人にセンスがあるかどうかというのは確かにわかります。しかし、それでは
センスのある子がプロになって大成するかどうかと聞かれたら、すぐにはわからないというのが正直なところです。
それは、この「継続的」まではなかなか見抜くことができないからではないかと考えています。

【解説】

自分でテーマを見つけ考え続ける

 羽生さんは、プロになって大成するかどうかを分ける能力として、「継続力」を挙げています。「ある程度のレベル
までは、『センス』でいけるのかも知れないが、そこから先は持続して考え続けることが重要である」。羽生さんの
持続力、集中力については、羽生さん自身、他の本の中でも触れられていますし、羽生さんについて語ったプロ
棋士の方の印象を拝見すると同様の印象を持っておられることがわかります。
 羽生さんの強さの秘密は、「将棋に関してなら、いくらでも考え続けられる」ということが大きく関係しているように
思います。そして、その原動力になっているのは、将棋に対する「飽くなき情熱」だと思います。私は、前の
セクションで、「熟達化するということは、無意識で処理できることが多くなるということ」と説明しましたが、一般には
何事にせよ熟達化してくると徐々に考えることが減ってくるものです。しかし、羽生さんの思考の様子を見ている
と、自分で新しい課題を見つけ、貪欲に「考える」ことを厭わない姿勢が伝わってきます。「考え続けること」は
「新しい課題を見つけ続けること」でもあるのです。
 新しい課題を見つける能力を、認知科学の分野では、「問題発見能力」と呼びます。たとえば「登頂が難しいと
されている山へ登山をする」という問題を例に挙げて考えてみましょう。
 この難題を解決するためには、山登りをするための装備(服装、登山道具、登山靴など)を考える必要があるで
しょう。また登山ルートを綿密に計画する必要があるでしょう。さらには、ガイドやパーティーの人選や登山のため
の体力づくり、天候の調査、食料の調達、不測の事態に対する備え、等々、考えなくてはならないことはたくさん
あります。このようにあることを達成するために不足している問題を自分で見つけていく能力が、問題発見能力
なのです。
 どの分野でも同じことだと思いますが、その世界で成功を収めている人は、その分野のことが好きで、その分野
について掘り下げて考えて、その分野で何かを達成するために、「自分でテーマを見つけ、考え続けることが
出来る人」だと思います。
「センス」があって、ある程度のところまで伸びても、その先は、「(自分で)考え続けること」ができないと伸び悩む
ことになるという羽生さんの言葉には、そういう意味が含まれているのだと思います。「好きこそものの上手なれ」
になるか「下手の横好き」になるかは、ここら辺の違いなのかも知れません。 


   ホームへ戻る    次号へ進む