将棋 「羽生善治 夢と、自信と。」 
              〜運命は勇者に微笑む〜
 NO.1427 

2006.12.1作成

 先日、本屋に行った時、「羽生善治 夢と、自信と。」(椎名龍一著)という本を見つけました。しかもサイン本で、

運命は勇者に微笑む 羽生善治 

と書かれていました。その本の中から、参考になった部分を少し紹介したいと思います。


「また勝てばいい」

 …
 有段者に駈け上っていく時期の善治少年は、勝っても負けても淡々としていたという。普通、子どものころは
負けることをとても悔しがるものだ。涙を流す子も珍しくない。しかし八木下席主の思い出によると、善治少年は
「勝てば昇級」という一番に負けて「惜しかったね」と声をかけても、「いいんだよ、また勝てばいいんだから」とさらり
と言ってのける少年だったそうである。
「目先の勝敗などにとらわれない、子どもにはめずらしいスケールの大きなところがありました」と八木下席主は
回想する。
 これは簡単なようでむずかしい。将棋というのは残酷なゲームであり、運に左右されないだけに、負けるという
ことはすなわち「相手よりも自分が劣っていたということを認めなければならない」部分がある。そして自分が劣って
いることを認めることができなければ「いいんだよ、また勝てばいいんだから」というクールな言葉はなかなか
言えない。
「いいんだよ、また勝てばいいんだから」という彼の言葉には、ふたつの教訓が含まれている。ひとつは「自分が
技術的に劣っていたから負けました」と素直に認めることの大切さ。もうひとつは「次は勝てるように技術を磨こう」
という向上心を持ち続けることの大切さである。

負けて「嬉しい」と言った羽生

 …
 この第7局の終局直後の様子が、『将棋世界』に掲載されている。
「一瞬、私は耳を疑った。
 終局約10分後、感想戦で羽生六段が、ポツリとつぶやいた言葉にである。
 第8局へ突入した感想を読売新聞山田記者が両対局者にたずねる。部屋は、10名以上のカメラマンが二人を
360度取り囲み、忙しくフラッシュをたく。何十倍、何百回と繰り返される光の数、閃光の激しさが、勝負の重大さ
を語っている。
『三連敗していましたので、最終局を指せるのは幸せです』と島は白い歯を見せた。
 続いて羽生。
『ええ…』といい、一瞬沈黙。言葉を探す口元に向けて閃光が光る。
『嬉しく思います』。聞こえるかどうかギリギリの声で、つぶやくようにもらした。そして、小さな笑顔を浮かべた。
 わずか10分程前に、島に頭を下げたばかりの羽生の口から、その余韻もさめやらぬ対局室で、ポツリと
『嬉しい』の言葉がもれたのである」(『将棋世界』平成2年2月号「竜王、島朗の意地」大崎善生)
 負けた直後に「嬉しい」という言葉を発したのは、八王子将棋クラブで指していた少年時代に昇級の一番を
負けてもけろっとして「いいんだよ、次にまた勝てば」と言っていたころを思い出させる話である。

将棋の神様はなぜ羽生を選んだのか

 七冠全冠制覇。将棋の神様はなぜ羽生を選んだのだろうか。
 羽生は常々、こう言っている。
「実力の差は紙一重なんです」と。
 ただ、その紙一重の差を作り出すことは非常に難しいことでもある。羽生は口には出さないが、その紙一重の差
を生み出すために必死で考え抜き、努力を惜しまなかったのだ。
 だから羽生は「天才」と呼ばれることをあまり好まない。天才的なひらめきによって将棋の技術を磨き上げてきた
部分もあったかもしれないが、大半は努力することによって将棋の心理をひとつひとつ積み上げ、ほかの棋士
よりも高いものを構築したのである。
 終盤戦で勝ちを読み切るための技術。形勢の悪い将棋を逆転するためのテクニック。中盤戦での判断力。序盤
戦術の知識の習得や独自の工夫。
 七冠王になった羽生は、これらの総合力でほかの棋士よりも優れていたのだ。
 そして神は、こう考えたのではないか。
「現在は羽生善治が一番高い所まで昇ってきていることをほかの棋士にも教え、奮起をうながさなければ
ならない」と。
 羽生を七冠王という祭壇に祀り上げることによって、ほかの棋士に対してさらなる向上心を求めたのでは
ないか。冒頭で「羽生を将棋の神に捧げる儀式だったと考えれば辻褄がピタリと合う」と書いたのはそういう意味
だ。
 羽生が七冠を制覇した直後、NHK衛星放送の解説を努めていた森下卓八段が「屈辱でしかありません」と
答えたのは有名な話である。ほかの棋士も同様にそんな思いで羽生の七冠戴冠を見ていたはずである。七冠王
の出現によってほかの棋士の勝負師魂に火がついたのは確かだと思う。羽生は間違いなく将棋のレベルを
それまで以上に引き上げる存在になった。実際、この七冠達成直後から、数人の棋士が頂上にいる羽生に
急接近してくるのだ。

運命は勇者に微笑む

 …
 羽生の座右の銘は「運命は勇者に微笑む」である。
 これはだれかの名言を借りているのではない。羽生が自分で考えて、自分の言葉で表現したものだ。僕も
ときどき自分の気持ちがひるみそうになったら、この言葉をつぶやくようにしている。そう「運命は勇者に微笑む」
だ。


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