将棋 「プロ論。3」
       〜脳科学者・茂木健一郎〜
 NO.1440 

2007.1.2作成

 前回紹介した、「プロフェッショナル 仕事の流儀7」(茂木健一郎編)という本では、各分野のプロフェッショナル

の人に、核心を突いたインタビューをしていました。逆に、この茂木健一郎という脳科学者はどんな人なのか、

興味がありました。そんな時、インターネットのAmazonで、「プロ論。3」という本を買い読んでいると、その中に

脳科学者の茂木健一郎さんの文章があったので、少し紹介したいと思います。


茂木健一郎氏(脳科学者)

「自分の欠点を自分で笑う。一流といわれる人は、それができていますよ」

  「クオリア(感覚の質感)」の研究で功績を残す一方、メディアでも大活躍。NHK総合「プロフェッショナル 仕事
  の流儀」ではパーソナリティーを務めている。人気の脳科学者に働き方のアドバイスをもらった。

どこかに所属するという概念はもう古い

 僕はそろそろ、個人と企業の関係が、変わってきてもいいころかなと思うんです。今まで社会で働くためには、
組織に属するか、自分で起業するしかなかったけど、そろそろ第3の道ができてもいい。それは、「アフィリエイト
(提携)」という関係です。ひとつの組織に「所属」するのではなく、複数の組織とアフィリエイトする。僕は今、ソニー
の研究所や大学などいろんな場所に席がありますが、そのアフィリエイトという第3の道を、自分自身で試している
ところなんですよ。
 どこかに所属していないといけないという概念はもう古い。イギリスでは「ギャップ・イヤー」という慣習があって、
大学に進む前などに、1年くらいどこにも所属していない期間を持ちます。その間に旅行やボランティアをするので
すが、アイデンティティーの確立に大いに役立っているのです。最近ではその成功をもとに、社会人になってからも
どこにも所属しない期間をつくる人が増えているのだそうです。
 日本では転職する際も、1ヵ月と間を空けず、次の組織に所属しますよね。名刺にどこかの企業名が書かれて
いないと落ち着かないからでしょう。これではいつまでも「個」を持つことができません。この所属意識は、日本では
常識でも、世界的に見ると非常識なんですよ。
 では、この第3の道を歩むためにはどうしたらいいか。僕の場合でいうと、飛んできた球を打ってきただけ
なんです。そういう意味では他力本願(笑)。例えば、僕が「クオリア」という概念にたどり着いたのは94年ですが、
脳科学者が集まる会議でその話をしました。「今の脳科学の問題は、クオリアの考え方がなければ解けないんだ」
と。そしたら大ブーイングです。でも、僕には確信があった。だから絶対に考えを曲げませんでした。その後、雑誌
で作家の井沢元彦さんと対談する機会があって、「クオリア」の大切さを話したんです。そしたらその記事を、当時
ソニーの会長だった出井伸之さんがたまたま飛行機の中で読んだ。そこから、ソニーのQUALIAプロジェクトが
始まりました。
 これが僕に投げられた球です。ちゃんとやっていれば、どこかで誰かが見ていてくれるんですね。よく、若い人は
機会がないと言いますけど、自分にその価値があるかどうかのほうが問題なんです。
 今はインターネットが普及している時代です。一生懸命やっているのに、誰からも見つけてもらえないなんてこと
は、まずありません。ただし、時間はかかりますよ。僕が「クオリア」という問題意識を持ってから出井さんが
見つけるまでに、10年かかりましたから。

  では、個人の価値を高めるにはどうしたらいいのか。「コミュニケーション力と創造力が必要だ」と茂木氏は
  言う。

安全地帯を持つことが、豊かな感情を生む

 個人の価値を上げるためには、「コミュニケーション力」と「創造力」が必要です。しかし、これらは一朝一夕に
養えるものではありません。「不確実性を楽しむ」ことができるかどうか、これが重要なんです。
 人間、誰でも生まれてから死ぬまで1秒たりとも同じ状況にある人はいません。変わらないものはないということ
です。それが「不確実性」です。その不確実性を認識し、楽しむ余裕を持つこと。これができないと、コミュニケーシ
ョン能力を育てることはできません。だって、初対面の相手がどんな言動をするかを恐れていては人と会えないし、
いろんな経験ができないでしょう。それでは創造力も育ちません。創造力は経験がもとになっているからです。
 とはいっても、なかなか不確実性を楽しむことができない人も多いと思います。そのために必要なのは、感情を
はぐくむことです。なぜなら、感情とは不確実なものに適応するためにあるものだから。
 例えば、あなたは、感動的な映画を見て心動かされますか?街で困っている人を見て、どういう感情を持ちます
か?自分の日常を振り返ってみるといいでしょう。同じ状況でも感じ方はそれぞれ違います。どんな感情を持てる
かで、人間性が問われます。
 誰でも子どものころは感情が豊かです。それは親が「安全基地」をつくってくれているから。逆に、人格を否定
するような叱り方をしたり、愛情が足りなかったりすると、情緒不安定な子供になる。それだけ安全基地を持って
いることは重要なんです。
 では、親が守ってくれない大人の場合はどうするか。経験やスキル、人脈を駆使し、自分で安全基地をつくるしか
ないんです。いろんな経験をし、知識を得、安全基地のインフラを整備する。勉強するということは大事なことなん
ですね。現代は猛勉強の時代だといっても過言ではありません。
 もうひとつ、創造性をはぐくむ秘策があります。それは「自己批評文」を書くこと。自分自身の欠点を自分で笑うと
いうことです。夏目漱石も『吾輩は猫である』の中でやっています。あの小説に出てくるくしゃみ先生は漱石自身
です。彼は自分自身を面白く批評できたから、世に名だたる作家となり得たわけです。
 自分を客観視することは「メタ認知」というのですが、これは成長するのに必要な要素です。己の弱点を客観視
できなくては、大した人物にはなれません。それこそ、「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出てくる一流といわれる
人たちは、皆、それができていますよ。
 自分自身を知ることは、何にでも役に立ちます。それこそ職業選択にも生きてきます。自分に向いているものは
何なのか、仮説が立てられていれば、新しい世界に飛び込みやすい。それで合ってなかったら、また次に行けば
いいんです。失敗を恐れてはダメ。意欲を失ってもダメ。「経験×意欲=創造力」です。つまり、意欲のあるジジイは
最強だってことですね。

プロの哲学 不確実性を楽しめば、個人の価値は向上する  


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