将棋 「高校生への伝言」
         〜谷川浩司・高校生新聞より〜
 NO.1482 

2007.6.30作成

 「高校生新聞 6月号」に、将棋の谷川浩司永世名人のことが書かれた「高校生への伝言」というコーナーがありました。挫折を越えて成長できる、

一歩踏み出してこそ新しい自分と出会える、というメッセージなどが高校生向けにわかりやすく書かれていました。高校生新聞を目にしたことのない

方が多いと思うので、ちょっと内容を紹介したいと思います。


高校生への伝言     棋士・永世名人 谷川浩司

挫折を越えて成長できる

 5歳で将棋を始め、14歳でプロデビューを果たした谷川さん。21歳の若さで名人位を獲得するなど、若くして才能を開花させた。だが、その
名人位は、わずか2年で失ってしまう。これが谷川さんの最初の大きな挫折。
 「この時、中学時代の数学の先生に『谷川、負けて良かったな』と言われたのが印象に残っています。自分でも実力以上のものが出ていたとの
思いがありましたので、先生の言葉も素直に受け取れました。追う立場、追われる立場の両方を経験して一人前。今度、名人位に挑む時は本当の
実力で獲りなさいと、将棋の神様が言っておられるのだとも思いました」
 それから3年後、見事に挫折をプラスに転じさせ、名人位に復活した。
 だが、将棋の神様は谷川さんにさらなる試練を与えた。それは今から15年ほど前、谷川さんが30代になって起きた環境の変化。年配棋士との
タイトル争いだったこれまでとは違い、羽生善治さんなど、後輩との争いが増えてきた。
 「最初は意識過剰というか、力が入りすぎて負けが続いた。23歳で(名人位を)獲られた時は、敗因も分かっていたので、立て直すことも容易
でしたが…。自分のスタイルも忘れてしまった」
 なぜ負けたのか、どうして勝てないのか。自問自答の繰り返しが、長く続くことになる。
 結果がすべての厳しい勝負の世界に生きてきた谷川さん。スランプに陥った時は、気弱にもなった。思いきり対局相手にぶつかることができずに、
自分を見失ってしまっていたのだ。
 タイトルをすべて失い、逆に吹っ切れたことで谷川さんは復活を遂げる。
 「30年以上も勝負の世界にいるわけですから、挫折も多い。でも、『優勢の時は気を引き締めて、劣勢の時は楽観的に』という対局時の気の
持ち方を思い出して、結果を焦らないようにしました。次第に、将棋を指すのが好きでたまらなかった5歳のころの気持ちを思い出し、自分の力を
自然に出せるようになった」

「原点」思い出しスランプを脱出

 30年以上の経験の中で学んだことは数多い。その一つに負けた時の対処法がある。
 「将棋はプロとして活躍できる期間が長い。でも、年間30〜60局ほど対局し、強い人でも20局くらいは負ける。だから、次の対局に備えて気持ち
を切り替える必要がある。いかに自ら負けを認め、敗因をプラスに転化できるか。いくら考えても結果は変えられないので、次に備えることが大切に
なるのです」
 ただ、頭では分かっていても、即座に気持ちを切り替えるのは難しい。40代になった谷川さんでさえ、いまだに負けを引きずることがあるという。
 「(そんな時は)忘れることですね。敗因の分析は必要ですが、引きずらないためにも、意識的に負けを忘れることが大切。引きずると、次局で決断
しなければいけない時に踏み込めない。攻めるか守るか迷った時は攻めるのが私の考えですが、引きずると決断も鈍ります。挫折を乗り越えて
成長できたと思う。だから、皆さんにも挫折を怖れずに挑戦してほしい」

一歩踏み出してこそ新しい自分と出会える

 10代のころの谷川さんもプロという未知の世界へ飛び込み、そこから新しい道を切り開いた。一歩踏み出さなければ挫折はないが、新しい自分
との出会いも生まれない。これは将棋の世界だけの話ではない。
 「だから、高校生の間に好きなことを見つけて打ち込んでほしい。好きな事ならつらいことも乗り越えられます。それを探すのが、学校生活でもある
と思う」
 「例えば、(授業で)難しい数式を学んでも、社会では役に立たないかもしれない。でも、考え方や筋道の立て方などは学べる」
 また、一礼をして授業に向かうなどの礼儀も、社会に出た時には重要だという。
 「将棋では『負けました』と、自ら敗北を宣言しないといけない。悔しくて言い難いですが、トップに立つ人はきちっと負けを宣言できる。それが礼儀
ですし、そうしないと前に進めない。負けが言えないなら棋士を辞めた方がいいとも思う。そんな経験の積み重ねが社会で生きてくるはずです」
 谷川さんの好きな言葉に「自我作古(われよりいにしえをなす)」という言葉がある。自ら新しいものを創造し、後の世ではそれが常識になるという
意味。それをなすには、未知の世界へ飛び込む勇気が必要だ。その行動が経験となり、力となるだろう。
 「そのために、高校生にも、何事も自分で決めてほしい。そうしないと(挫折しても)納得できません。10代、20代のうちは、少しくらい失敗しても
やり直しができるのですから」


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